中小企業の社長と経理が知っておくべきPLの見方

2024.10.22

企業の経営を支える重要な役割を担う社長と経理担当者にとって、PL(損益計算書)の理解は欠かせません。PLは企業の収益性や経営状況を示す財務諸表の一つであり、その見方や分析方法を正しく理解することで、戦略的な意思決定や経営改善につなげることができます。本記事では、社長と経理担当者が知っておくべきPLの見方を詳しく解説します。基礎から応用まで、実務に役立つ情報を提供しますので、ぜひ最後までご覧ください。

PL(損益計算書)とは何か

PL(Profit and Loss Statement)、日本語では損益計算書とは、一定期間における企業の収益と費用をまとめ、その結果としての利益や損失を示す財務諸表です。企業の経営成績を評価するための重要なツールであり、以下のような目的で活用されます。

  • 経営状況の把握:収益性や費用構造を分析し、経営の健全性を評価します。
  • 戦略的意思決定の支援:新規事業の展開や投資判断の基礎資料として活用します。
  • ステークホルダーへの報告:株主や金融機関などへの説明資料として使用します。

PLは大きく以下の項目で構成されます。

  1. 売上高:商品やサービスの販売による収入。
  2. 売上原価:商品やサービスの提供に直接かかる費用。
  3. 売上総利益:売上高から売上原価を差し引いた利益。
  4. 販売費及び一般管理費:販売活動や管理業務にかかる費用。
  5. 営業利益:売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた利益。
  6. 営業外収益・費用:本業以外の収益や費用。
  7. 経常利益:営業利益に営業外収益を加え、営業外費用を差し引いた利益。
  8. 特別利益・損失:一時的・例外的な収益や費用。
  9. 税引前当期純利益:経常利益に特別利益を加え、特別損失を差し引いた利益。
  10. 法人税等:税金の支払い。
  11. 当期純利益:最終的な利益。

PLを正しく理解し、各項目の関係性を把握することで、企業の収益性や効率性を総合的に評価することができます。

売上高と売上原価の分析方法

PLの最初の重要な項目は売上高売上原価です。これらの数値を分析することで、企業の収益構造や原価管理の状況を把握できます。

売上高の分析

売上高は、企業の事業活動の成果を直接示す指標です。以下の観点で分析を行います。

  • 前年比較:前年同期と比較し、成長率を確認します。
  • 計画比:予算や計画と比較し、達成度を評価します。
  • 市場シェア:業界全体の売上高と比較し、市場での位置づけを把握します。
  • セグメント別分析:商品、サービス、地域、顧客別に売上高を分解し、強みと弱みを特定します。

売上高の増減要因を明確にすることで、成長戦略の立案や販売戦略の見直しにつなげることができます。

売上原価の分析

売上原価は、商品やサービスの提供に直接かかる費用です。以下のポイントで分析を行います。

  • 原価率の確認:売上原価を売上高で割り、原価率を算出します。原価率の上昇は、利益率の低下を意味します。
  • 原材料費の変動:主要な原材料の価格変動を確認し、コスト管理に活かします。
  • 製造効率の評価:生産プロセスの効率性を評価し、無駄の削減や改善策を検討します。

売上原価の管理は、企業の利益率を直接左右するため、綿密な分析が必要です。

売上総利益と売上総利益率

売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いたもので、企業の基本的な収益力を示します。売上総利益率は、売上総利益を売上高で割った割合です。

  • 売上総利益率の重要性:高い売上総利益率は、価格設定力や原価管理の優秀さを示します。
  • 競合比較:同業他社と売上総利益率を比較し、自社のポジションを評価します。
  • トレンド分析:過去数年間の売上総利益率の推移を確認し、改善傾向や課題を把握します。

売上総利益とその率の分析は、経営戦略や価格戦略の見直しに直結します。

販売費及び一般管理費の理解とコントロール

PLの中盤に位置する**販売費及び一般管理費(販管費)**は、企業の間接費用を示します。これらの費用の理解とコントロールは、営業利益の確保において重要です。

販売費の内訳と分析

販売費は、商品やサービスを販売するために必要な費用です。具体的には以下の項目が含まれます。

  • 広告宣伝費:マーケティング活動にかかる費用。
  • 販売員給与:営業スタッフの人件費。
  • 販売手数料:代理店や仲介業者への手数料。
  • 運送費:商品配送にかかる費用。

販売費の効果を最大化するためには、費用対効果の分析が不可欠です。

一般管理費の内訳と分析

一般管理費は、企業の経営・管理活動に必要な費用です。主な項目は以下の通りです。

  • 役員報酬:経営陣の報酬。
  • 人件費:管理部門の人件費。
  • 租税公課:固定資産税や事業税など。
  • 減価償却費:資産の価値減少分の費用化。

一般管理費の適正化は、経営効率の向上に直結します。

販管費のコントロール方法

販管費を効果的にコントロールするための方法を以下に示します。

  • 予算管理の徹底:各費用項目に対して予算を設定し、定期的に実績と比較します。
  • 費用対効果の評価:特に広告宣伝費など、投資効果が見えにくい費用については、KPIを設定して効果を測定します。
  • プロセスの見直し:業務フローを分析し、無駄なプロセスや重複を削減します。
  • 外部委託の検討:非コア業務については、アウトソーシングを活用してコスト削減を図ります。

販管費の適正なコントロールは、企業の収益性向上に大きく寄与します。

営業利益とその重要性

PLの中で特に重要な指標の一つが営業利益です。営業利益は、企業の本業による利益を示し、経営の成果を直接反映します。

営業利益の計算方法

営業利益は、以下の式で計算されます。

営業利益 = 売上総利益 – 販売費及び一般管理費

この計算式からもわかるように、営業利益は売上高、売上原価、販管費の3要素によって決まります。

営業利益の分析ポイント

営業利益を分析する際の主なポイントは以下の通りです。

  • 営業利益率の確認:営業利益を売上高で割った営業利益率を算出し、収益性を評価します。
  • トレンドの把握:過去数年間の営業利益とその率の推移を分析し、増減要因を特定します。
  • 競合他社との比較:業界平均や主要な競合他社と比較し、自社のポジションを評価します。
  • 費用構造の分析:売上総利益と販管費のバランスを見て、費用構造の最適化を検討します。

営業利益の改善は、企業の経営戦略やオペレーションの見直しに直結します。

営業利益向上のための施策

営業利益を向上させるための具体的な施策は以下の通りです。

  • 売上高の拡大:新規顧客の獲得やクロスセル・アップセルによる売上増加。
  • 原価削減:購買コストの見直しや生産効率の向上。
  • 販管費の削減:費用対効果の低い活動の見直しやプロセス改善。
  • 価格戦略の見直し:適切な価格設定により、利益率の向上を図ります。

営業利益の向上は、企業価値の増大や株主価値の向上につながります。

営業外収益・費用と経常利益の見方

PLの後半部分には、営業外収益・費用経常利益が記載されています。これらの項目は、本業以外の活動による収益や費用を示し、企業の総合的な経営成績を評価する上で重要です。

営業外収益・費用とは

  • 営業外収益:本業以外の活動から得られる収益。具体的には、受取利息、配当金、有価証券売却益など。
  • 営業外費用:本業以外の活動で発生する費用。具体的には、支払利息、有価証券売却損、為替差損など。

これらの項目は、財務活動や投資活動の結果を反映しています。

経常利益の重要性

経常利益は、以下の式で計算されます。

経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用

経常利益は、企業の通常の経営活動から生じる利益を示します。営業利益だけでは見えない、財務面や投資面の成果を含めて評価できるため、以下のような観点で重要です。

  • 財務健全性の評価:利息収支や投資の成果を確認できます。
  • 資金調達コストの把握:借入金の利息負担などを明確にできます。
  • 総合的な収益力の評価:営業活動と財務・投資活動を総合的に評価できます。

経常利益の安定性は、企業の持続的な成長にとって重要な指標です。

経常利益の分析ポイント

経常利益を分析する際の主なポイントは以下の通りです。

  • 利息収支のバランス:受取利息と支払利息の差額を確認し、財務戦略を評価します。
  • 投資活動の成果:有価証券の売買や配当収入などの成果を分析します。
  • 為替変動の影響:海外取引がある場合、為替差損益を確認します。
  • トレンドと比較:過去の経常利益の推移や競合他社との比較を行います。

経常利益の変動要因を把握することで、財務戦略や投資戦略の見直しにつなげることができます。

特別利益・損失と当期純利益への影響

PLの最後の部分には、特別利益・損失当期純利益が記載されています。特別項目は一時的・例外的な収益や費用を示し、当期純利益は最終的な利益を表します。

特別利益・損失とは

  • 特別利益:臨時的な要因で発生した収益。具体的には、固定資産売却益、投資有価証券売却益など。
  • 特別損失:臨時的な要因で発生した費用。具体的には、固定資産売却損、災害損失、減損損失など。

これらの項目は、通常の経営活動とは別に発生するため、一時的な利益や損失として扱われます。

当期純利益の重要性

当期純利益は、以下の式で計算されます。

当期純利益 = 税引前当期純利益 – 法人税等

当期純利益は、企業の最終的な利益を示し、以下のような点で重要です。

  • 株主価値の評価:当期純利益は配当や内部留保の原資となります。
  • EPS(1株当たり利益)の算出:投資家が企業の収益性を評価する際の指標となります。
  • 経営戦略の成果評価:一年間の経営活動の総合的な成果を示します。

当期純利益の安定した増加は、企業の信頼性や成長性を高めます。

特別項目の影響と分析

特別利益・損失は、一時的な要因によるものが多いため、その影響を適切に評価することが重要です。

  • 継続性の評価:特別項目が今後も発生する可能性があるかを検討します。
  • 本業への影響:特別損失が本業の問題から発生している場合、その根本原因を特定します。
  • 税効果の考慮:特別損失は税金の減少につながる場合があるため、税効果も含めて評価します。

特別項目を正しく理解することで、当期純利益の質を評価し、経営判断に活かすことができます。

PLを用いた経営分析の手法

PLは単体で見るだけでなく、他の財務諸表や指標と組み合わせて分析することで、より深い洞察が得られます。以下に、PLを用いた代表的な経営分析の手法を紹介します。

損益分岐点分析

損益分岐点分析は、利益がゼロとなる売上高(損益分岐点)を求める手法です。

  • 固定費と変動費の区分:販管費などを固定費と変動費に分けます。
  • 損益分岐点売上高の計算:固定費を限界利益率で割って求めます。
  • 安全余裕率の算出:現在の売上高が損益分岐点をどれだけ上回っているかを示します。

損益分岐点分析により、売上高やコスト構造の改善余地を把握できます。

財務比率分析

PLのデータを用いて、各種財務比率を計算し、企業の収益性や効率性を評価します。

  • 売上総利益率:売上総利益 ÷ 売上高
  • 営業利益率:営業利益 ÷ 売上高
  • 経常利益率:経常利益 ÷ 売上高
  • 純利益率:当期純利益 ÷ 売上高

これらの比率を過去のデータや業界平均と比較することで、経営状況を客観的に評価できます。

トレンド分析

PLの主要項目について、過去数年間のデータを時系列で分析します。

  • 売上高の推移:成長率や増減傾向を把握します。
  • 利益率の変化:売上総利益率や営業利益率の変動を確認します。
  • 費用構造の変化:原価率や販管費率の推移を分析します。

トレンド分析により、長期的な経営課題や改善ポイントを明確にできます。

競合比較分析

同業他社のPLと比較し、自社のポジションや強み・弱みを評価します。

  • 利益率の比較:各利益率を競合他社と比較します。
  • 費用構造の違い:原価率や販管費率の差異を分析します。
  • 成長性の評価:売上高や利益の成長率を比較します。

競合比較により、業界内での自社の立ち位置を客観的に把握できます。

PL分析を活用した経営改善のアプローチ

PLの分析結果を基に、具体的な経営改善策を立案・実行することが重要です。以下に、PL分析を活用した経営改善のアプローチを紹介します。

コスト削減策の立案

費用項目の詳細な分析により、無駄なコストや効率化の余地を特定します。

  • 原価低減:仕入先の見直しや生産プロセスの改善。
  • 販管費削減:広告宣伝費の最適化や業務プロセスの効率化。
  • 固定費の見直し:オフィス賃料や設備投資の最適化。

コスト削減は、利益率の向上に直結します。

売上拡大戦略の策定

売上高の分析結果を基に、成長戦略を立案します。

  • 新規市場の開拓:未開拓の地域やセグメントへの進出。
  • 製品ラインナップの拡充:新商品の開発や既存商品の改良。
  • 販売チャネルの多様化:オンライン販売やパートナーシップの強化。

売上拡大は、企業の持続的な成長に不可欠です。

価格戦略の見直し

売上総利益率や市場状況を踏まえ、価格設定を最適化します。

  • 価格帯の調整:市場の需要や競合状況に応じて価格を設定。
  • 値引き戦略の検討:短期的な売上増加を狙ったプロモーション。
  • 付加価値の提供:差別化要素を強化し、高価格帯での販売を目指す。

適切な価格戦略は、利益率と市場シェアの両方に影響を与えます。

資金調達と財務戦略の強化

経常利益や営業外収益・費用の分析結果を基に、財務戦略を見直します。

  • 資金調達コストの最適化:借入金利の見直しや資金調達手段の多様化。
  • 投資戦略の再評価:投資案件の収益性やリスクを再検討。
  • キャッシュフローの改善:売掛金回収や在庫管理の強化。

健全な財務戦略は、企業の持続的な成長を支えます。

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